認知症の症状には中核症状と周辺症状があります。周辺症状はBPSDといわれ、BPSDには心理症状と行動症状があります。今回はBPSDの心理症状についてまとめていきます。
心理症状には、不安症状、うつ症状、幻覚・妄想などがあります。それぞれの症状の特徴は以下の通りです。
不安症状
軽度の認知症では、認知機能の悪化に対して病識を持ち始めて不安を抱くようになります。また、今までそれほど気にしていなかったこと、例えば財産や健康状態などにも不安を持ち始め、日常生活の些細なことに対して不安になっていきます。
認知症が進行していくと、思考が生産的な方向に向かずに将来について何度も尋ねるようになります。また、一人になるのを異常に嫌がり家族や介護者の後をつきまとったりするようになります。
更に、不安は焦燥や徘徊などの原因にもなります。
うつ症状
アルツハイマー病の初期症状としてうつ症状が現れることがあります。アルツハイマー病発症3年以内に、大半の人がうつ症状を呈します。認知症に付随するうつ症状の特徴としては、非哀感、罪悪感、低い自己評価よりも、喜びの欠如や身体的不調感のような非特異的な気分変調が多いことが挙げられます。また、抗うつ薬に対する反応があまりよくなく、副作用が起こりやすいことも特徴です。
うつ病の高齢者が認知症と同じような症状を呈することもあります。このような状態を偽性認知症といい、うつ病の改善と共に消失します。しかしながら、病気の経過によってはいつの間にか認知症に移行することが多くあります。
初期であれば認知症とうつ病性偽性認知症の判別は可能ですが、認知症が進行すると身体的状態の悪化、神経学的状態の悪化、コミュニケーション能力の低下、睡眠障害、体重減少、アパシーなどが見られるようになり、うつ病の診断が段々と困難になっていきます。
アパシー
アパシーとは、趣味が家事などの日常活動や身の回りのことに関心を示さないようになり、意欲が消失し、関わり合いを避けるようになって、活動性が低下する状態を指します。BPSDではうつ症状よりも多く見られ、コリンエステラーゼ阻害薬という分類の薬によって改善することもあります。
このアパシーはうつ病との鑑別が困難ですが、アパシーではうつ病で見られるような不快な気分や自律神経障害を伴わないことが特徴です。
幻覚・妄想
幻覚の中でも幻視の発現が最も多く、アルツハイマー病では19%、レビー小体型認知症では80%の割合で起こります。
妄想の発現頻度は血管認知症よりもアルツハイマー病の方が高く、更にレビー小体型認知症の頻度が高くなります。最もよく見られる妄想は、自分の物が盗まれるという物盗られ妄想で、その他には見捨てられるという妄想も多く見られます。
認知症による妄想は内容が変わりやすく、短絡的であることが特徴です。妄想の対象は家族や介護者のことが多く、関係の悪化につながる可能性があります。
その他に妄想と解釈される例として、「ここは家でない。家に帰る。」と言って荷物をまとめたり、家族や介護者を「偽物だ」と言って攻撃する人物誤認などがあります。
以上がBPSDの心理症状の特徴です。